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【開催報告】2023年12月12日(火)、「今こそ“いのち輝く未来社会”と“カーボンニュートラル”を共に考える」を開催しました。

<日時>  2023年12月12日(火) 15:00〜17:30
<場所>  ハイブリッド開催(大阪大学中之島センター いのち共感ひろばとZoom)
<参加者> 39名(対面18名、Zoom21名)
<プログラム>
・開会挨拶:堂目卓生/大阪大学SSI長、経済学研究科教授
・話題提供1 小杉隆信/立命館大学政策科学部教授
      「脱炭素化とSDGs」
・話題提供2 西和哉/野村総合研究所シニアコンサルタント
      「国内外のカーボンニュートラルの動向」
・話題提供3 朝倉薫/日本電信電話株式会社経営企画部サスティナビリティ推進室室長
      「NTTグループのカーボンニュートラルに向けた取組」
・話題提供4 山口一哉/小田原市環境部ゼロカーボン推進課課長
      「カーボンニュートラルに向けた小田原市の取組」
・ディスカッション(モデレーター:新藤一彦/大阪大学共創機構特任教授、万博推進室副室長)


「カーボンニュートラル」をテーマにしたサロンの開催
2023年12月12日(火)に第18回SSIサロン「今こそ“いのち輝く未来社会”と“カーボンニュートラル”を共に考える」を開催しました。本サロンはSSI協力プロジェクト「カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーションプロジェクト」の立ち上げに際して、SDGsでも大きな問題になっている気候変動を考える際に重要な問題である「カーボンニュートラル」について話題提供・議論する場として開催されました。
今回はサロンとしては初めて中之島センターのいのち共感ひろばでの開催で、Zoomを併せたハイブリッド形成で非常に熱の籠もった議論が展開されました。

「カーボンニュートラル」の最新動向と国内におけるグッドプラクティスの紹介
最初に堂目SSI長より本日のサロン開催の趣旨と、SSIが中心となって活動している「いのち会議・いのち宣言」と本日のサロンの関係について開会挨拶が行われました。持続可能な未来社会を構想する上で、エネルギー・気候変動の問題は避けて通れない課題であり、サロンを通じて有益な議論が展開されることに期待すると述べられました。

話題提供ではまず、立命館大学政策科学部教授の小杉隆信氏より「脱炭素化とSDGs」というテーマで、脱炭素化/カーボンニュートラルの問題を考える上で重要な論点の紹介がなされました。多くの研究によってCO2排出量と地球温暖化の密接な関係性が明らかになる中で、「低」炭素化を越えて「脱」炭素化社会を目指されなければならず、化学燃料に由来しないエネルギーの比率を高めると共に、どうしても残存するCO2を除去・改修する技術の開発を急ピッチで進めることが不可欠だと話されました。そのためには科学技術だけでなく社会・経済・制度の「移行(トランジッション)」が必要で、カーボンニュートラルを進める事で温暖化そのものだけでなく、経済・健康・社会・環境・安全保障と多様な面で発生する間接的な好影響・悪影響・リスク・費用などをきちんと理解し、取り組まなければならないと述べられ、本日のサロンでの議論の土台を示してくれました。

続いて、2人目の話題報告者の野村総合研究所シニアコンサルタントの西和哉氏が「国内外のカーボンニュートラルの動向」というタイトルで報告が行われました。脱炭素(温室効果ガスの排出量を0にする)とカーボンニュートラル(排出量と吸収量の均衡)の違いなど用語の歴史を解説した上で、日本政府が脱炭素社会にむけて取り組んでいる供給(自家用太陽光発電など)と利用(省エネ建築、脱炭素まちつくりなど)のフェーズでの重点政策を紹介され、2050年までに電源の74%を非石油化する課題について紹介されました。また、諸外国の取組も紹介され、原子力の扱いが日本と違う点や、EUを中心とした水素戦略が大きな影響を与えていることが指摘され今後の見通しが非常にクリアになる情報の提供がなされました。

3人目に、NTT経営企画部サスティナビリティ推進室室長の朝倉薫氏より「NTTグループのカーボンニュートラルに向けた取組」が紹介されました。NTTグループは「つなぐ」というミッションに基づいて、テクノロジーの進化による社会課題解決・価値創出を目指しサスティナビリティの取組も行っていると述べられました。具体的にはデータ量の増加にともない電力量が増大するなかで、温室効果ガスの排出量を2030年までに80%削減→40年までにカーボンニュートラルの達成という目標を掲げ、再生可能エネルギーの利用増大やインフラの整備をすすると共に、一次産業やゴミ処理のスマート化を推進するなど循環型社会の実現にむけた事業展開を行っていることが紹介されました。企業が自らの活動のカーボンニュートラル化だけでなく、地域社会や他の企業と連携した取組を行っているグッドプラクティスが示されたと思います。

最後に、小田原市環境部ゼロカーボン推進課課長の山口一哉氏が「カーボンニュートラルに向けた小田原市の取組」について報告されました。小田原市では2022年に野心的再エネ目標(排出量50%減・再エネ利用5倍など)を設定し、小規模分散型の再エネ発電(建物の屋根の利用)など供給の側面に加えて、蓄電池・EV・発電網の整備などを中心に利用の側面で先進的な取組が行われていることが紹介されました。具体的にはEVを活用した脱炭素型地域交通モデルの開発や、災害時・停電時に既存の電線を利用したエリア内で独立運用可能なマイクログリッドの開発など利用フェーズでの先進的な取組などを通じて、地域経済の好循環につながるような全体最適の自立普及モデルの構築を目指されていることが紹介され、自治体のグッドプラクティスとして参加者からも大きな注目を集めていました。

カーボンニュートラルを目指すことで「いのち輝く未来社会」を実現できるのか
全体議論ではモデレーターの大阪大学共創機構特任教授で、「カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーションプロジェクト」メンバーの新藤氏から論点が示された上で、熱心な議論が繰り広げられました。

議論の前半では20世紀末の京都議定書の時代から、21世紀のパリ協定の時代へと移り変わる中でカーボンニュートラルがどう変わり、今後更にどう変わっていくのがについて話し合われました。小杉先生の報告にもあったように、「低」炭素から「脱」炭素へと変わっていく中で、より厳しい目標設定・政策立案がなされるようになるだけでなく、政府や企業だけでなく、一般市民まで含めて幅広いステークホルダーを巻き込んだ活動の広がりも少しずつみられるようになっており、直接的な脱炭素・カーボンニュートラルに関わる影響だけでなく、経済や社会制度などに与えられる好影響・悪影響についてもしっかりとビジョンを示していくことが重要になってきているということが改めて共有されました。

また、カーボンニュートラルの実現は本当に可能なのかという論点については、実現可能性が極めて低いと言わざるを得ないような厳しい目標が掲げられている一方で、CO2の吸収源である森林管理に関わる政策や、地域におけるエネルギー・経済の循環型社会の推進の原動力にするにはどうしたら良いかなど、より広い視野に立って考えることが必要だという意見が出ました。こうした取組・意識・ビジョンのあり方は、まさに「いのち輝く未来社会」を目指すために不可欠なことであり、プロジェクトにおいては学生の関与を重視していることもあり、次代を担う若者も含めた多様なステークホルターが一緒に考え、取り組むことができる事業・プロジェクトを進めていくことが不可欠であり、万博をそのための契機として活用できればという議論もなされました。

これ以外も様々な意見・想いが共有され、あっというまにサロンの時間は終わりを迎えました。カーボンニュートラルの問題はすべてのいのちに関わる非常に重要な問題であると同時に、解決が難しい問題でもありますが、SSIサロンのような場を通じて議論し、「どのように変わっていかなければならないか」、「どのように変わってきているのか」共有し、自らの居場所を確認しながら継続して取組を進めていく姿勢こそが課題解決の土台となるということが参加者の間で確認されたように思いました。「カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーションプロジェクト」の意義は、まさしくカーボンニュートラルをテーマに、社会の幅広いステークホルダーを巻き込み、問題意識を共有し、議論を通じてどのような未来社会を目指すのか考え続けていくことにあるのではないでしょうか。