「いのち会議」とは、「いのち」とは何か、「輝く」とはどういうことか、「誰一人取り残さない」ために何をなすべきかを、あらゆる境を越えて考え、話し合い、それぞれが行動に移す場です。いのち会議 

活動状況|いのち宣言

【提言】医療と福祉のデータを統合し、AIなどを活用することによって、一人一人の生活や考え方にあったケアと予防を実現しよう

概要

現在の医療と福祉のケアや予防対策は、主に量的データ(年齢、体重、血圧などの数値データ)に依存していますが、人々の生活習慣や心理状態といった質的な要素を十分に捉えられていません。そのため、個々の状況に合わせたケアや予防策の策定に課題があります。質的データとは、人々の感じていることや生活の困難など、数値では表せない情報のことです。近年のAI技術の進展により、こうした質的データを活用することで、個々の患者に最適なケアや予防策を予測し、提供できるようになってきています。AIは、生活習慣や心理状態を分析して個別に健康リスクを予測し(これをAI予測モデルとします。)、より的確な健康アドバイスが可能です1),2)

いのち会議は、大阪大学社会ソリューションイニシアティブのプロジェクト「科学と人のアートによって醸成される、一人ひとりの自律に基づく死生観に裏打ちされた超高齢社会」3)とともに、AI技術と予測分析を活用し、医療と福祉の統合データサイエンス基盤を構築し、質的データを活用したAI予測モデルで健康と福祉の向上を目指しています。これにより、個々のニーズに応じたケアや予防策が可能となり、地域全体の健康促進に貢献することが期待できます。

近年、医療・福祉の分野ではAIと予測分析が大きな進展をもたらしている一方で、現行用いられているAI予測モデルでは主に量的データが使用されており、人々の生活や考え方を反映させることが困難な状況にあります。現在のAI予測モデルは主に量的データに基づいており、人々の生活や考え方を反映させることが難しい状況にあります。AIと予測分析の効果をさらに向上させるためには、質的データを導入し、生活に寄り添った疾患予防や介護予測を行うことが不可欠です。これにより、より個別化されたケアと予防策が可能となり、患者満足度の向上や医療費の削減につながることが期待されます。

図1.予測モデル(AI)開発と文理融合データサイエンス基盤の構築

図1は、医療と福祉のデータを一緒に使って、より良いケアやサポートを提供するための方法を示しています。従来のAI予測モデルは、病院の診療データや介護の記録などの数値データ(量的データ)を中心に使っていましたが、それだけでは患者さんの生活や感じていることを十分に理解できませんでした。そこで、新しいAI予測モデルでは、数値データに加えて、患者さんや介護者の「体験談」や「語り」といった質的データも取り入れることが重要です。こうした質的データを使うことで、患者さんの生活環境や人間関係などの背景情報をより詳しく把握できます。この新しい仕組みを「CHR(Contextual Health Records)」と名付け、医療や介護に関わるすべての人が患者さんの生活状況やニーズを共有し、より個別化されたケアや予防策を提供できるようにすることを目指しています。これにより、患者さん一人ひとりに最適なサポートが提供され、医療と福祉の質が向上することが期待されます。

今後は、このような活動をさらに推進するために、いくつかの具体的な取り組みを進めていきます。まず、患者さんや介護者の体験を深く理解するために、看護や介護の記録、患者さんの語りなどの質的データを集め、それを医療記録(EHR)や個人健康記録(PHR)と一緒に管理できる大きなデータベースを作ります。次に、集めたデータをAIが理解しやすい形に変えるために、自然言語処理(NLP)技術を用います。これにより、AIは患者さんの生活の様子や考え方を学び、個別のニーズに応じたケアを提案できるようになります。さらに、量的データと質的データを組み合わせた新しいAI予測モデルを開発し、病気の予防や介護の最適化を目指します。開発したモデルを医療や福祉の現場で実際に試し、その効果を検証しながら、予測結果と実際の結果を比較してモデルの精度を高めます。また、地域の公共図書館や集会所でワークショップを開催し、人々の体験談を集めることで、質的データを充実させるだけでなく、AIモデルの有効性について理解を深めてもらうことを目指します。

いのち会議は、これらのアクションを通じて、個々の患者や介護者に最適なケアと予防策を提供し、地域社会と科学の協働を強化することで、医療と福祉の質の向上と持続可能な社会の実現に貢献していきます。

参考情報

1) Road map for clinicians to develop and evaluate AI predictive models to inform clinical decision-making
 https://informatics.bmj.com/content/30/1/e100784
2) AI and predictive analytics are transforming healthcare. Here’s how.
 https://www.milliman.com/en/insight/ai-and-predictiveanalytics-are-transforming-healthcare-heres-how
3) 大阪大学社会ソリューションイニシアティブ 基幹プロジェクト「科学と人のアートによって醸成される、一人ひとりの自律に基づく死生観に裏打ちされた超高齢社会」
 https://www.ssi.osaka-u.ac.jp/activity/core/sciencehumanity/

関連するアクションパネルのテーマ

1.医療・福祉

関連する「いのち」

いのちを「はぐくむ」

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