「いのち会議」とは、「いのち」とは何か、「輝く」とはどういうことか、「誰一人取り残さない」ために何をなすべきかを、あらゆる境を越えて考え、話し合い、それぞれが行動に移す場です。いのち会議 

いのち宣言

価格だけでなく「雇用の数を競う」公共調達と、「雇用の質を問う」中間支援組織の連動で、みんなの「働きはじめる」「働きつづける」を支えよう

日本における今から25年前の知的障がい者をとりまく状況を思い起こしてみます。1998年、法定雇用率の算定基準に「知的障害」が含まれました。 1999年、「精神薄弱」という軽蔑的な法律用語が「知的障害」に改まりました。2000年、社会福祉基礎構造改革でサービス利用が「行政措置」か ら「利用契約」に変わりました。就労系サービス体系が整理されるのはもう少し先(2006年)で、知的障がい者の就労支援の推進に自治体は頭を悩ませていました。

そんな時代、大阪府では1つのアイデアが生まれました。それが「行政の福祉化」※1です。財政危機でもあった大阪府は新たな予算をかけるのではなく、既存施策・府有資源を活用し、障がい者などの雇用・就労機会の創出や自立支援を目指したのです。就労機会の創出では、公共調達のなかでも知的障がい者の特性にマッチする清掃業務が注目されました。清掃現場に「知的障がい者等の就労訓練」という付加価値をつけ、価格だけでなく「障がい者の雇用」などを評価する総合評価一般競争入札が導入され、多くの雇用が生まれました。いま大阪府の大規模物件の清掃入札に参加するビルメンテナンス企業の障がい者雇用率は、10%以上と産業そのものがソーシャルファーム(障がい者など多様な人が働く事業体)になっています。

清掃現場での「知的障がい者等の就労訓練」を受託する大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(エル・チャレンジ)は、 2019年に大阪府の「障がい者等の職場等環境整備組織」※2の第1号として認定されました。その役割は、大阪府から清掃業務を受託する企業と雇用される障がい者の中間に立ち、働きやすい職場をつくることです。働きやすい職場とは、「障がい者雇用率ビジネス」(雇用率達成のみを目的とした形式的な雇用)※3の職場とは一線を画します。

法定雇用率遵守のために障がい者雇用をはじめたとしても、それをきっかけに、自社業務を見直したり、本人の能力開発を推進したりして、戦力化に向けたプロセスを踏んでいくことが重要で、それは働きやすい職場づくりにつながります。エル・チャレンジは、障がい者が戦力として活躍できるよう、企業と共に働きやすい職場をつくってきました。

2050年の日本の人口は約9,500万人と推計され、高齢層が約1,200万人増加し、生産年齢層は約3,500万人減少し、かさむ社会保障費と目減りする税収で、従来の社会福祉制度の存続も容易ではありません。大阪府の総合評価一般競争入札は2017年に「社会的コスト推計」調査が実施され、総合評価入札に係る経費(通常入札との価格差等)と障がい者就労による利益(社会保障給付費の削減等)を比較し、コスト面からも政策的有効性は実証済みです※4。この結果は大阪府のハートフル条例(2018)改正の追い風になりました※5。他にも富士市のユニバーサル就労条例(2017)や東京都のソーシャルファーム条例(2020)といった就労支援条例が策定されています※6,7

いのち会議は、2050年に向けて、行政・産業・福祉の三者協働で生まれた「行政の福祉化」の25年間の経験を、他の地方自治体や一般事業者にも拡げ、「大阪の福祉化」へとつなげていくことをめざします。実現に向けて、エル・チャレンジなど、関係各所と協働し、政策目的を持った公共調達の仕組みづくりを推進し、誰もが「働きはじめる」「働きつづける」社会づくりに貢献します。

【註】

※1 大阪府「行政の福祉化」

https://x.gd/p4pEb

※2 大阪府「障害者等の職場環境整備等支援組織」(障がい者分野)について」 https://www.pref.osaka.lg.jp/o090060/keikakusuishin/syuuroushien/syokubakankyou.html

※3 厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会 第128 回(R5.4.17)」参考資料3:いわゆる障害者雇用ビジネス(※)に係る実態把握の取組について https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001087755.pdf

※4 大阪府「行政の福祉化の取組みに係る検証 社会的コスト推計に関する調査検討業務」

https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/5874/gyofukukachousa1.pdf

※5 大阪府「改正ハートフル条例(2018)」

https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/5874/heartfulchirasi.pdf

※6 富士市「ユニバーサル就労条例(2017)」

https://www.city.fuji.shizuoka.jp/kurashi/c0606/universal_work.html

※7 東京都「ソーシャルファーム条例(2020)」

https://www.social-firm.metro.tokyo.lg.jp

【参考情報】

・大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(エル・チャレンジ)

http://www.l-challenge.com/

・NPO 法人福祉のまちづくり実践機構

https://wep-npo.com/

【アクションパネル】

経済・雇用・貧困、多様性・包摂

【SDGs】