いのち宣言
遠くのいのち、次のいのちに想いをはせる力を育て、気候変動への対策に自分ごととして取り組もう
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃特別報告書によれば、世界の平均気温は、産業革命の前と比べて、2010年代にはほぼ1℃上昇したとされています。そして、その頃から世界では、異常な高温、山火事、大型の台風やハリケーンといった熱帯低気圧による被害、大雨と洪水など、気象災害が頻発するようになってきています。現代の科学は一つ一つの気象災害と地球温暖化の関係を定量的に示すまでには至っていませんが、地球温暖化が進行していなければ、これほどの気象災害は起こらなかったと考えられます。
これらの気象災害によって世界中で多くのいのちが失われ、あるいは脅威にさらされています。先進国では、冷房の使用や堤防の設置、管理された農業など適応策によってその影響を低減できていますが、発展途上国の人びとは大きな被害を受けています。適応しようのない生態系の被害はより深刻です。現在までに先進国が排出した温室効果ガスが、世界中の現在から将来に至るすべての世代のいのちに影響を及ぼし、その影響は後の世代になるほど大きくなります。
これらの事実が自分事として認識できれば、自ずと行動も変化するはずです。世界中で脱物質化、循環経済が進む中、温室効果ガス排出の主役は、「ものづくり」から人々の衣食住や移動といった「暮らし」に移りつつあります。すなわち、日々の行動、エネルギーの選択、住まいや消費財の選択、移動手段の選択が今後の世界の「いのち」に重大な影響をおよぼすのです。脱炭素技術を積極的に採用して、産業を化石燃料依存から転換していくことで温暖化の悪化を食い止め、経済を成長させ、明るい未来を築いていくことが重要です。しかしながら、現在のところ、多くの人びとはこれらの事実を認 識できていません。「2050年にカーボンニュートラルを実現」と政府が言っても、コンセントの向こうで太陽光と風力が普及して勝手に脱炭素社会ができるだろうという程度の認識にとどまっているのが現状ではないでしょうか。
では、すべての人びとが温暖化問題への対処を正しく認識し、脱炭素社会への歩みを始めるためには何が必要でしょうか。将来世代や世界中のさまざまないのちに思いをはせ、自らの行動とそれらへの影響の関係を想像できる力が何より求められます。そのために必要なのは気候変動問題に関する正しい科学的知識と、科学に裏付けられた想像力の醸成です。そしてそれをもとに、暮らしに関わるエネルギー需要の在り方を見直していくことが求められます。
大阪大学大学院工学研究科都市エネルギーシステム研究室(下田吉之教授)では、暮らしに関わるエネルギー需要のモデル化に長 らく取り組んできました。近年は人々のWell-Being を損なわずに低エネルギー社会を実現するシナリオを提示する国際共同研究ネットワーク EDITS(Energy Demand changes Induced by Technological and Social innovations)に参画しています。 EDITSではエネルギー需要に関わるデータやコンセプト、モデルの相互比較をおこない、デジタル化やシェアリングエコノミーの影響、途上国の人々のDecent Living Standards(適切な生活水準)を保障するために必要なエネルギー需要、SDGsとの整合、新しいサービスの形を考慮しながら、実現可能な低エネルギー需要シナリオを開発していきます。
いのち会議は、こうした活動を推進し、2050年までに、すべての人が気候変動への対策を自分事として取り組む世界を実現したいと考えています。
【参考情報】
・IPCC 1.5℃特別報告書 SPM
https://www.ipcc.ch/sr15/chapter/spm
・地球温暖化対策計画(令和3年10月)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/211022.html
・パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(令和3年10月)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/chokisenryaku.html
・技術革新によるエネルギー需要変化に関するモデル比較国際連携事業
https://www.rite.or.jp/system/research/edits
【アクションパネル】
エネルギー・気候変動
【SDGs】
