いのち宣言
学術・研究コミュニティの強化、学際的・体系的な変革の推進、エビデンスに基づく指針の提供、そしてグローバルな協働の促進により、食料システムの改革、栄養改善、気候変動、健康課題への対応を図り、より健康で公正な未来を目指そう
現在、世界は多重危機(ポリクライシス)に直面しています。紛争の激化、経済の不安定化、食料価格の高騰、そして気候変動に伴う極端な気象現象や災害の増加が、地球規模の安定を脅かしています。多国間主義の弱体化や地政学的緊張の高まりにより、 2030年のSDGs 達成に向けた進展はますます困難な状況にあります。
飢餓や栄養不良(栄養不足と肥満の双方を含む)は、いまだ世界的な危機であり、不健康な食生活に起因する部分が大きく、26億人以上が栄養の観点で健康的な食事を手に入れられていません。さらに、21世紀最大の健康危機であったCOVID-19からの回復の最中に、新たな感染症(Mpox やマールブルグ熱など)や再興感染症(鳥インフルエンザなど)が公衆衛生上のリスクを増幅させています。食料不安は深刻化し、食に起因する疾患は悪化しており、「安全で、健康的かつ、持続可能な食事」を求める声が切実であるにもかかわらず、いまだ実現されていません。いまこそ、決定的なグローバルアクションが求められています。
SDGs 達成まで残りわずか5年となる今、あらゆる分野と関係者に、かつてないほどの危機感や達成への確固たる意思を持つこと、そして大胆で加速的な行動を取ることが求められています。大阪・関西万博2025は、まさにこの転換点に登場し、「いのち」を救い、力づけ、つなぐための革新的解決策を探るプラットフォームとなります。人間と自然との共鳴を創出することを目指し、すべての人にとって持続可能で包摂的な未来の実現を築く道を照らす場として機能します。
政府は、食料システムを変革し、人と自然の共鳴を育み、より健康的で栄養価の高い食事をすべての人に保障するための中核的な役割を担っています。この体系的な変化は、持続可能でレジリエント、かつ公平な未来を築くために不可欠です。政府は、栄養の安全保障を強化し、持続可能な農業を推進し、環境を保護する政策を策定・実施することで、明確なリーダーシップを示さなければなりません。
様々なグローバル・コミットメントを具体的成果へとつなげるためには、栄養不良や食料不安、気候関連の課題といった根本原因に取り組む具体的行動が必要です。政府は、各分野の政策間の整合性を確保し、優先事項の衝突を防ぎつつ、最大限の効果を発揮しなければなりません。あわせて、人的・財政的資源の戦略的配分によって、持続的な実施、研究開発、イノベーション、分野を超えた協働が実現されます。確かなリーダーシップと揺るぎないコミットメントにより、政府は人と地球の両方を育む食のシステムに、永続的な変革をもたらすことができます。
政府の取り組みを効果的に導くには、学術・研究コミュニティが必要な能力と専門性を備えていることが不可欠です。新たなシステムに対する深い理解、そして学際的な知識は、食のシステム、栄養、公衆衛生、気候変動といった複雑な課題に取り組むための基盤となります。多様な分野の知見を統合することで、質の高い研究とエビデンスに基づく政策提言が可能となり、ビッグデータや疫学的手法を活用して実践的な知見を生み出すことができます。
さらに重要なのは、研究成果を政策立案者に対して明確かつ実行可能な形で伝える政策提言およびコミュニケーション能力です。政策分析と評価の力は、既存の政策の有効性を測定し、改善点を特定するのに役立ちます。戦略的思考はシステム全体の変革を後押しし、倫理的・文化的感性は、政策が公平で包摂的かつ社会的責任に即したものとなるよう導きます。こうした力により、学術・研究コミュニティは、食料不安、栄養不良、公衆衛生といった喫緊の課題に対して中心的な役割を果たすことができるのです。
また、学術・研究コミュニティの能力と専門性を高めることは、企業や業界によって推進される健康に有害な製品や戦略─いわゆる「商業的健康決定要因」─に対抗し、公衆衛生と人々のウェルビーイングを守るためにも極めて重要です。
いのち会議の「食と健康グループ」は、世界のさまざまな地域・分野の国際的専門家で構成されており、学術・研究コミュニティの能力と力量を強化するために、以下の二つの具体的な行動を提案します。
これにより、学術・研究コミュニティがその重要な役割を効果的に果たし、上記の課題に取り組むことに貢献できるようにします※1,2。
1.2025年から2026年にかけて、アジア太平洋地域およびアフリカ地域の学術・研究コミュニティを対象に、食のシステム、栄養、公衆衛生、気候変動に関連する重要なテーマについての情報を共有し、対話を促し、知見を交換するための一連のウェビナーを開催します。
・この月例ウェビナーシリーズでは、各国・地域の食と栄養に関する学会や科学団体のメンバーを招き、特にアジア太平洋およびアフリカの参加者に焦点を当てて実施します。
2.2025 年2 月4 日に発足したコロンビア大学の「Food for Humanity」イニシアティブ(F4Hi)※3と緊密に連携しながら、「人類のための食」に関するアジア太平洋協働ネットワークを設立します。
・このネットワークは、持続可能で公平な食のシステムに関する研究、教育、政策、プログラムを推進し、革新的な解決策の開発を目指します。
・ネットワークの中間成果は、2026年末に開催予定の会議において発表・議論されます。
【註】
※1 Nutrition and food systems transformation are vital to achieving the SDGs. Anchored in SDG 2(Zero Hunger), they are critical for ending hunger, improving health(SDG 3), boosting learning outcomes(SDG 4), reducing poverty(SDG 1), and fostering economic growth(SDG 8). Sustainable, resilient food systems also support climate action(SDG 13)and responsible consumption(SDG 12), positioning nutrition and food systems as cross-cutting enablers of the entire 2030 Agenda and beyond.
※2 Schneider , KR, et al. The state of food systems
worldwide in the countdown to 2030. Nature Food, 2023, 4(21): 1090 – 1110.
※3 Food for Humanity Initiative
https://food.climate.columbia.edu
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