いのち宣言
【提言】『人間と自然を渾然一体に捉える日本的自然観に基づく設計理念』に基づき、既にある価値を建築をつくることを通じて顕在化しその場所に根付かせ文化のバトンを後世に渡す。
概要
現代社会は、大地震やパンデミック、世界の分断といった混沌の中にあり、さらに物質的には豊かであっても、情報や技術の急速なデジタル化とAI化によって、人間の感性や伝統的な技術、自然や文化といった「見えないが大切なもの」が知らず知らずのうちに失われつつあります。こうした時代において、Yurica Design & Architectureは、建築を通じて「過去の記憶と価値を未来へひらく」ことを目指す思想──オープンノスタルジア(Open Nostalgia)──に基づき、活動を続けています。
オープンノスタルジアとは、過去に閉じこもることなく、歴史や記憶、素材の声に耳を傾けながら、それらを未来へとひらく設計思想です。ノスタルジアを保存や模倣ではなく、「継承と変容」の契機と捉え、建築を通じて人と自然、時間と物質、そして地域との関係性を耕し直すことを志向します。
その実践の一つが、兵庫県淡河町に残された「淡河本陣跡」のリノベーションです。50年以上空き家だった歴史的建物に、地域の人々が集う新たな拠点としての機能を与える提案が採択され、住民と協力して改修。8年が経った今では地域に完全に根付き、もはや元の姿を思い出せないほどにその場が成長しています。これは、建築が単に形を与えるだけでなく、「時間と共に成熟する場」を生み出せるという好例です。
また、代表の竹村優里佳さんは、2025年大阪・関西万博において若手建築家20組の一人として選出され、共同設計者の小林広美さん・大野宏さんとともに「Traces of Earth/地球の形跡」を設計しました。この建築では、京都・木津川市に存在する「残念石」と呼ばれる巨石──16世紀に大坂城の石垣用として切り出されたものの使われず、400年もの間眠っていた石──を再び建築の中に迎え入れました。単に自然石である以上に、400年前の人びとが切り出したという人間の力を五感で感じることができるそうです。
竹村さんは、幼少期に大きな石と共に過ごした原体験と、日本に古くから根付く「自然物にいのちが宿る」という八百万の神の思想を背景に、これらの石を「いのちあるもの」として捉え、建築に傷つけずそのまま取り込むことを目指しました。伝統的な石場建ての技術「光付け」と、現代の3Dスキャンや5軸NC加工技術を融合させ、石の表情にぴたりと合う木材を設えるという新たな工法に挑戦しました。
完成した建築では、石の上にそのかたちに寄り添うように木材が積層され、その上に軽やかに屋根が浮かびます。こうした構成は、伝統的な構法である石場建構法を再解釈し、自然物と人工物の境界を和らげながら、時間と素材、人と自然の対話の場を生み出します。
竹村優里佳さんは次のように語っています。「コンペで勝ち取った万博という枠組みでの建築を設計するチャンスを頂き、その後、行政にプレゼンテーションをしに向かったのが最初です。そうして石と関わるようになり、行政や石を見守ってきたNPOの方々とたくさんの議論を重ねました。そうした時間が持てたことで、私たち自身も学ぶことができ、地域の資源を世界中の方々に建築という場所をつくることを通して見ていただけること、そして大切な歴史を振り返るきっかけをつくることができたと思っています。」
400年の時を経て再び公共空間に迎え入れられた石は、会期終了後には地域へと戻され、循環する物語の一部となります。
Yurica Design & Architectureは、2050年を見据えて今後も、「人間と自然を渾然一体に捉える日本的自然観に基づく設計理念」にもとづいて建築をつくっていくために、次のような計画をたてています。
1.建築によって既存の価値を可視化し、文化の継承を可能にする
2.人間の五感や知覚に訴える空間体験を創出する
3.土地固有の魅力を引き出し、自然と人の心地よい関係性を築く
4.ボーダレスな視点から、日本発の価値を世界へ発信する
5.歴史とテクノロジーの融合を通じて、現代の文化の入口をつくる
さらに、全国各地で「人と自然の共鳴する場」を育てていく取り組みも進めています。
いのち会議は、Yurica Design & Architectureのこうした活動に参画し、2050年を見据えた長い時間軸で、オープンノスタルジアの思想を建築というかたちに宿らせながら、未来の文化を紡ぐ試みを推進してまいります。

参考情報
・YuricaDesign&Architecture
https://www.yuricadesign.com/
・淡河本陣跡地
https://oniwa.garden/ougo-honjin-kobe/
・2025年万国博覧会での敷地概要・プレスリリース
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/uploads/2400530_wakate5_nishi1.pdf
https://architecturephoto.net/209559/
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20240530-05/
・2025年万国博覧会での共同設計者
Studio mikke! https://note.com/studio_mikke555/n/needbae4bcabe
Studio on_site https://www.studioon.site/
・2025年万国博覧会でのデジタルデザイン監修
新工芸舎 https://www.shinkogeisha.com/
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