「いのち会議」とは、「いのち」とは何か、「輝く」とはどういうことか、「誰一人取り残さない」ために何をなすべきかを、あらゆる境を越えて考え、話し合い、それぞれが行動に移す場です。いのち会議 

いのち宣言

【提言】文化の多様性を尊重するとともに、異なる文化に属する他者との、同じ時代を生きる者としての共感をはぐくみ、一つ一つのいのちの大切さとそのつながりをいつくしもう。

概要

人類の文明は、今、数百年来の大きな転換点を迎えているように思われます。これまでの、中心とされてきた側が周縁と規定されてきた側を一方的に支配しコントロールするという力関係が変質し、従来、それぞれ中心、周縁とされてきた人間集団の間に、双方向的な接触と交錯・交流が至るところで起こるようになっています。 その動きのなかで、世界には新たな分断が生じてきています。

一方で、2020年以来のコロナ禍を経験した私たちは、私たち人類の生活が、目に見えないウイルスや細菌の動きと密接に結びついていること、言い換えれば、われわれ人類もあらゆる生命を包含する「生命圏」の一員であることを、文字通り身をもって経験することになりました。また、人新世(Anthropocene)などという時代の呼び方が唱えられ、人間の活動が地球環境そのものに不可逆的な負荷を与えていることが自覚されて、未来を見据えた地球規模での対応に迫られています。

このように、人類全体での協働が必要とされるにもかかわらず、それを妨げる力学が働いているというのが今日の状況です。今ほど、人びとが、異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界を築くこと、さらには、人間のいのちだけでなく、すべてのいのちの尊さを認識し、人間もまた、そのすべてのいのちのつながりの中で生きる道を見出すことが求められている時代はありません。

多様性の維持が、人間の文化にしろ、生物にしろ、その存続の基盤であることは言うまでもありません。ただ、それは、個々の文化、個々の生物が、それ自体で完結・独立し、他から隔絶した存在である、あるいはあってよいという意味ではありません。とりわけ、人間の場合、自己の文化への傾倒はややもすれば他者の排斥・差別に傾くきらいをはらんでいます。それだけに、私たちは、常にこの自他の認識の陥穽に自覚的である必要があります。

多様性の尊重と同時に求められるのが、他者とのつながり、つまり、同じ人間としての、あるいは同じくいのちを持つものとしての共通性・普遍性の認識であり、同時代を生きるものとしての共感です。

大阪・千里の国立民族学博物館の本館展示の入り口には、バックパネルに短い「問い」が記された4つのステージが並んでいます。そのうちの一つのステージには、「似ている?それとも違う?」という問いのもとに、世界各地の仮面が展示されています。いずれも威嚇の表情をもつよく似た形の仮面ですが、制作場所は日本やボリビア、インドネシアなど、さまざまです。その隣のステージには、「違う?それとも似ている?」の問いのもとに、ロブスターをかたどったガーナの棺桶と、オーストラリア・アボリジニの人びとが墓地に立てる柱状棺が置かれています。形は全く異なりますが、死者を悼む気持ちに変わりはありません。

写真:国立民族学博物館のイントロダクション展示「似ている?それとも違う?」
威嚇の表情が共通した世界各地の仮面が並ぶ。

写真:国立民族学博物館のイントロダクション展示「違う?それとも似ている?」
ガーナ、アクラ近郊で流行している具象的な棺桶。死者の職業や趣味に合わせて遺族が形を決める。ここに展示されているのは、エビの養殖業者の棺桶。後方に立っているのは、オーストラリア・アボリジニの人たちの柱状棺。形は違っても、死者を悼む気持ちには共通性がみられる。

この二つのステージは、文化の多様性と共通性を示しています。それは観客にこれから展示を見る際の大切な視点を身に着けてもらうための仕掛けですが、同時に、文化人類学のものの見方を凝縮したものにもなっています
https://www.minpaku.ac.jp/exhibition/permanent/videotheque#tan

多様性の尊重と共通性の認識、あるいは同時代を生きるものとしての共感。この両者を常に心に抱いておくことが、2030年までになどとは言いません、いつの時代にあっても、私たち人間に求められていることなのだと思います。それが実現できてこそ、はじめて共生社会、「誰一人取り残さない」コンヴィヴィアルな社会を築くことができるのでしょう。

多様性の尊重と他者へ共感。一つ一つのいのちの大切さとそのつながりの認識。 いのち会議は、2025年大阪・関西万博が、そうした認識を世界中の人びとのあいだで共有する機会になることを願うとともに、万博後もそうした認識を広める活動を続けてまいります。

参考情報

・国立民族学博物館
 https://www.minpaku.ac.jp/

・国立民族学博物館:インフォメーション・ゾーン
 https://www.minpaku.ac.jp/exhibition/permanent/videotheque#tan
 

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