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いのち宣言

【提言】防災における「つながり」の盲点となっている宗教施設・科学技術・自治体の連携で「多様性によるイノベーション」を起こし、レジリエントな共生社会を創ろう   

概要

近年、日本国内外で地震や豪雨などの自然災害が頻発し、避難所不足が深刻な課題となっています。従来の指定避難所だけでは避難者を十分に受け入れることが難しい状況が各地で見られます。この問題を解決するために、宗教施設の活用が注目されています。東日本大震災や熊本地震では、寺社などの宗教施設が避難所や災害ボランティアセンターとして機能し、自治体や社会福祉協議会と協力して支援活動をおこないました。また、能登半島地震では、35を超える宗教施設が避難所となり、多くの避難者を受け入れました。宗教施設は地域住民の信頼を得ており、避難時の情報伝達や安否確認、心のケアといったソフト面での防災力向上に貢献する可能性があります。

このような視点に立ち、大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)は、一般社団法人地域情報共創センターなどとともに、「地域資源と科学技術による減災」 というプロジェクトを進めてきました(プロジェクトリーダーは、稲場圭信人間科学研究科教授)。

宗教施設を災害時に活用するためには、自治体が宗教施設を避難所や緊急避難場所に指定したり、災害の備えてとして自治体と宗教組織が協力して避難計画や災害時の体制などで話し合っておいたり、協定を締結したりするなど、自治体との連携を強化し、平時から準備しておくことが必要です。現在、自治体と宗教施設の間で災害時の協力協定を結ぶ、 あるいは協力関係を構築する動きが広がっていますが、その割合は全自治体の24.0%にとどまっています。まだ多くの自治体において、宗教施設との協力を検討する余地があります。また、宗教施設の耐震性や立地条件などの課題もあり、ハザードマップを活用した避難計画の策定や施設の耐震化の促進も求められます。

一方、ICT(情報通信技術)やAI、IoT(モノのインターネット) といった科学技術を活用することで、防災の効率化や情報共有の強化が可能になります。特に、地域資源と科学技術を融合させたソーシャル・イノベーションの推進が重要です。ICTを活用した避難所管理システム、リアルタイムでの避難情報提供、災害時のボランティアマッチングなど、さまざまな技術が防災に貢献できます。科学技術を活用しながらも、多様な主体が協力し合うことで、単なる技術主導のイノベーション(Technology-Driven Innovation, TDI)ではなく、多様性を活かしたイノベーション(Diversity-Driven Innovation, DDI)が可能になります。そこでは、利益や効率だけでなく、利他・支え合い・共生といった共通価値を創出することが求められます。

災害時には、宗教施設が避難所としてだけでなく、帰宅困難者の一時滞在施設や遺体安置施設としても機能することが期待されます。東京都では宗教施設を帰宅困難者の受け入れ施設として活用する取り組みを進めており、今後、他の自治体でも同様の取り組みを進めることが望まれます。

このように、宗教施設・科学技術・自治体の連携を強化することで、災害時の受け入れ体制を拡充し、地域社会全体のレジリエンスを向上させることができます。そして、平時からの見守り体制を強化することで、災害時だけでなく、日常の安全・安心にも寄与することができます。今後は、自治体と宗教施設のさらなる協力関係の構築や、科学技術を活用した防災システムの導入を進めることが求められます。

多様な主体の連携を進めることで、災害時だけでなく、平常時からの共助の精神を育むことができるでしょう。防災における「つながり」の盲点となっている宗教施設、科学技術、自治体の連携を強化し、DDIの視点を取り入れることで、より効果的で包括的な防災体制を構築し、レジリエントな共生社会を実現することが可能です。それぞれの主体が持つ強みを活かし、互いに連携・協力することで、災害に強く、誰もが安心して暮らせる地域社会の実現を目指しましょう。

いのち会議は、多様性を活かしたイノベーション(DDI)の視点に立ち、様々な組織やプロジェクトと協働しつつ、宗教施設・科学技術・自治体の連携の取り組みを推進してまいります。






参考情報

・社会ソリューションイニシアティブ(SSI)協力プロジェクト「地域資源と科学技術による減災」
 https://www.ssi.osaka-u.ac.jp/activity/joint/disasterprevention/
・未来共生災害救援マップ(災救マップ)
 https://riccc.or.jp/respectmap/
・一般社団法人地域情報共創センター
 https://riccc.or.jp/
・稲場圭信・川端亮(2025)「自治体と宗教施設の災害時協力 : 令和6年度全国基礎自治体調査」、『宗教と社会貢献』15(1), pp.1-22.
 https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/100624/

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