いのち宣言
【提言】こどもたちの純粋な思いに触れることで優しさが内発的に湧きあがることを知り、誰もが持つ良心を制限なく発揮できる世の中で、それぞれのいのちを育み、生かしあおう。
概要
大阪市高槻市にある株式会社宮田運輸の社長、宮田博文さんは次のように語っています。
私たちは、2013年に起こした交通死亡事故がきっかけで変わりました。
宮田運輸は67期目となる会社で、私は2012年に4代目社長として就任させて頂きました。その翌年、就任して間もない2013年のとても忙しい夏の日でした、弊社トラックと43歳の男性が乗るスクーターバイクとが接触事故を起こし、バイクに乗られていた男性がいのちを落とされました。事故後、男性のお父様から言われたことを今でも心に刻んでおります。「この事故はどっちがいいとか、悪いとか分からへんけどな、たった今息子がいのちを落とした。その息子には小学校四年生の娘がおった、そのことだけは分かっといてくれな」と。私は「誠心誠意尽くさせて頂きます」とお答えするので精一杯でした。
交通事故は社会課題です。その時までももちろん事故防止の取り組みや、思いを周りに伝えてきました。ですが今回の事故で、信じてきた仕事が人のいのちを奪ってしまうことに直面し、大変ショックを受け、そして同時に自分たちが誰かを生かし、また生かされていることに気づき、社員一人ひとりがいのちに見えました。それからは亡くなられた方やご遺族、そして社会のために自分たちにできることは何かを考えました。
まず私がおこなったのは、管理・監視を強化することでした。しかし、あまり改善が見られませんでした。それどころか不平・不満を耳にするようになりました。このまま良くならないのであればトラックをなくす方法を考えた方がいいのではないか、と思い悩み苦しんでいる時、ある人にこう言われました。
「宮田君トラック好きやろ?それやったらトラックをなくすのではなく、活かす方法を考えたらどうや?」
と。そうか、トラックを活かすことでいのちを生かしあうことができるのかと気づきました。そんな時に見つけたのが、運転士たちがキャビンに飾っている、自身のこどもの絵でした。その絵を見た瞬間にすごく穏やかで、やさしい気持ちになるのを感じました。そうか、この純粋で真っ直ぐな絵とメッセージを車内ではなく車外にラッピングすることで、運転士はもちろんトラックを見る一般ドライバーもやさしい気持ちになり、互いが内発的に事故を起こしたくないと思うのではないかと思いました。事故から1年後、トラックにこどもの絵をラッピングした車両が完成しました。


私たちはこの活動を「こどもミュージアムプロジェクト」と名付け、社内に広げていくことにしました。すると、自社調べではありますが、事故率が4割減となりました。その時に私は、人は管理・監視ではよくならないことを知り、誰の心にもやさしい気持ちがあるのだと気づきました。だったらそれを発揮できるきっかけを会社で作り、会社にとって都合の良い会社人間を育成するのではなく、社会に求められる社会人を育み、社員が社会に求められる存在になれるように一人ひとりの運命を開こうと思いました。
今ではやさしい気持ちが物流業界以外にも必要だということで、薬局や工事現場、病院や飲食店など多種多様な方々にも参画していただき、また国内を飛び出して中国・ラオス・タイへも広がり、交通事故を減らすことはもちろんのこと、社会を良くする活動へと飛躍しています。また、メインがこどもたちの絵なので、こどもたちの絵が世の中の役に立っていることなどをお伝えし、自己肯定感を育んでいただけるよう、保育園や小学校でお話しさせていただいたり、高校生などへは現在の形になった経緯をお話しして、失敗や過ちをそのままで終わらすのではなく、経験へと昇華させるための向き合い方などお話しさせていただきながら、おとなもこどもも気づきのある活動を行っています。
私たちは、これからもこの活動に制限をかけずに、人が他を思いやる心を育み、人と社会が生かしあい、50年後にはこういった活動や思いが「良いこと」ではなく、「普通のこと」として定着する世の中になることをめざします。
いのち会議は、企業をはじめとしたあらゆる現場において、こどもたちの純粋な思いに触れることによって一人ひとりの優しさが内発的に湧きあがる、そのような機会や仕組みを数多く設け、誰もが持つ良心を制限なく発揮できる世の中を一緒に創ってまいります。
参考情報
・こどもミュージアムプロジェクト協会HP
https://www.kodomo-museum.jp/
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